本読むヒトデ

古書店・HITODE BOOKS(ヒトデブックス)の商品や業務などをご紹介します

第一印象を決めるタイトルデザイン

こんばんは。いつの日かデザイナーという看板も掲げたいなぁと思っている古書店・HITODE BOOKS(ヒトデブックス)です。

 

その本の中身のことはよく知らなくても、表紙をひと目見て「!」となる瞬間があります。装幀は専門に仕事をする人がいるだけあり大切な仕事だとつくづく感じます。今回はその中でもタイトルデザインの話題です。


最近、日本陶磁協会が発行する「陶説」という専門誌を買い付けました。寡聞にして、そのとき初めてこの雑誌を手に取ったのですが、わずか2文字のタイトルの雰囲気が実にいいんです。丸みのある「陶」の文字と、「説」の旧字である「說」を少し崩して書き上げた線のバランスがよく、白地にオレンジやブルーに色付けしてレイアウトされたタイトルが美しく映えています。創刊は昭和28年という歴史ある雑誌で、目次には表紙題字として日本画家の安田靫彦さんの名前がありました。さすがの仕事です。

陶説の表紙

年代によっては、背表紙にもこの2文字が使われています

私は手書きの文字が好きで、佐藤三郎さんの『酒田の本間家』のタイトルデザインもかなりのお気に入りです。最初に「酒」の文字が決まったのでしょうかーー「酒田の」の3文字が作り出す「間」が見事です。3つの文字がお互いを引き立て合って絶妙な関係で並んでいるようで、試しに「の」だけを隠してみると、途端にバランスが崩れてしまうから不思議です。装幀は、以前「みちのく豆本」のときにもご紹介した佐藤十弥さんでした。

「酒田の本間家」表紙

佐藤十弥さんの仕事は「みちのく豆本」にたくさん見つけることができます

民藝関係のタイトルデザインも、既存のフォントにはない味わいがあって好みです。手元にある『民藝図鑑』の装幀は、芹沢銈介さんです。デザインという言葉よりも図案という表現がぴったりくるような、力強さがあります。

「民藝図鑑」表紙

太みのある線は民藝作品らしく、ほっこりさせられます

最後にご紹介するのは、少し手前味噌です。ヒトデブックスでは古書店の運営とともに、編集の仕事もおこなっています。昨年末、能楽師梅若玄祥さんが「実」を襲名する記念公演のパンフレットを制作。また現在、町田市民文学館ことばらんどで開催中の展覧会「白洲正子のライフスタイルー暮らしの遊びー展」のチラシも担当しています。

四世梅若実襲名披露大阪公演パンフ

2018年末に開催された「四世梅若実襲名披露大阪公演」のパンフレット

いずれもタイトルデザインは、特に力の入る仕事です。梅若実さんも白洲正子さんも、その世界で築き上げた確かな実力(芸)がある方々。そこで、既存のフォントにひと手間掛け、文字をかすれさせ、結果として浮かび上がる文字の芯を強調することで、余分な装飾を削り取った後に残る「強い部分」を表現したいと考えました。

「白洲正子のライフスタイル 暮らしの遊び展」チラシ

若き日の白洲さんが、まっすぐこちらを見つめる写真が印象的

このような作業は、グランジ加工と呼ばれることもあります。と、何やら訳知り顔で書いていますが、実のところ私はデザインはそれほど得意ではありません。この仕事はデザイナーの上浦智宏さんにお願いし、美しいタイトルデザインを作っていただきました。これら2作品は、日本タイポグラフィ協会が主催する審査会「日本タイポグラフィ年鑑2020」で入選となりました。

 

ヒトデブックスでは、これからもタイトルデザインに注目していきます。