本読むヒトデ

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東京・新宿の「とらや」

こんばんは。最近海外ミステリーを多数入荷した古書店・HITODE BOOKS(ヒトデブックス)です。

 

横山秀夫さんは、好きなミステリー作家のひとりです。今年は「ノースライト」という長編ミステリーを出し、年末恒例の「このミステリーがすごい!」でも第2位となっていました。主人公の青瀬は建築士で、ある日「あたな自身が住みたい家を建ててください」という言葉を携えて突然目の前に現れた吉野夫妻のために、信濃追分浅間山を望む家を作り上げます。しかし、その後施主と一切の連絡が着かなくなり、家には一脚の椅子だけが残されていた……という物語です。

 

青瀬が作り上げたのはノースライト(北側からの柔らかな光)が差し込む、木の家です。若い頃は、コンクリート打ちっぱなしの洋館こそ自らが住みたい家と考えていたにも関わらず、なぜ木の家を選んだのか。それは、別れた奥さんが望んだ家だったのです。横山秀夫作品といえば警察組織内の内部抗争にワナワナするイメージでしたが、それとは趣の異なる今回の物語にも大満足でした。

ノースライト

物語では、家とともに表紙の椅子(ブルーノ・タウトの椅子)が鍵でした

ーーという話を枕にして今日は本の話ではなく、映画の話をしようと思います。「家」が物語の鍵になるこの作品を読み進めながら、頭の片隅に浮かんできたのは映画「男はつらいよ」の主人公、車寅次郎の姿です。

 

男はつらいよ」のなかの家といえば、葛飾柴又の「とらや」です。おいちゃん、おばちゃん、さくらと博と満男、そしてたこ社長が集まって「そろそろかね」「なにが」「ほら、またそろそろ寅ちゃんが帰ってくる頃かなって」という会話をしていると、そこに寅さんがふらりと帰ってきます。

 

そしてマドンナとの恋がきっかけのバタバタがあって、売り言葉に買い言葉の応報の末、寅さんはまた「とらや」と出ていってしまいます。そんなとき、「夏になったら鳴きながら、必ず帰ってくるあのツバクロさえも、何かを境に、パッタリ帰ってこなくなることもあるんだぜ」という未練たっぷりのセリフをいうことも忘れません。帰ることのできる家があるからこそ、出てくる言葉です。

 

今年は「男はつらいよ」の第一作公開から50年目の節目で、12月27日には第50作目の作品が公開されることも話題となっています。それに合わせて、東京・新宿の「BEAMS JAPAN」では、「男はつらいよ ビームス編」と題したコラボレーションイベントを展開中です。

 

寅さんとBEAMSというまったく意外な組み合わせは、BEAMSの代表である設楽洋さんのアイデアで誕生した企画のようです。「男はつらいよ」のファンだった設楽さんと、同じくその世界に親近感を抱いていた「BEAMS JAPAN」のバイヤーが中心となり、帽子、シャツ、ブルゾン、時計に財布などなど、寅さんの愛用品が今の感覚でアップデートされたアイテムは、松竹(製作会社)の発想ではまず出てこないものばかり。

 

この企画では新たな客層も掴めている様子で、洋服ではサイズ展開も残りわずかとなっている商品もあると聞きました。店舗1階には、実際に映画美術を担当するスタッフによって再現された「とらや」が出現し、さまざまなコラボレーショングッズが並んでいます。主題歌の流れる店内には寅さんの姿こそありませんが、でも、寅さんの存在をジワジワと感じさせる2019~2020年的な「男はつらいよ」の新たな一場面がありました。ファッションアイテムも(たまに柴又のお団子も販売!)取り揃える「とらや」は、2020年1月28日まで展開中です。

渥美清

アサヒグラフ1984年4月27日号に見つけた渥美清さん(赤い帽子が寅さんではない)